多読の落とし穴
英語の学習法として知られる「多読」ですが、実は意外と難しい学習法です。
ただ単純に大量の英文を読んでいれば自然とTOEICのスコアが上がるなんて考えてはいけません。多読は非常に時間がかかる学習法です。そのため、間違ったやり方をしている場合、貴重な時間が無駄になるので注意が必要です。
多読の効果
まず多読をすることによる効果を考えたことがあるでしょうか?
TOEICの勉強をするときは、その勉強にどのような効果があるのか考えてから行うことが大切です。効果を知らないと、間違った勉強方法に進んでいってしまったときに気がつくことができず、せっかく頑張って勉強したのにスコアがのびないといった結果になりかねません。
多読の主な効果は以下の3つです。
① 英語を読むリズムを覚える
英語を速く読めるようになるためには、3段階のステップがあります。
英文を日本語と同じように主語、目的語、述語というように訳していく状態。英語初心者にありがちな読み方で、このレベルではTOEICで900点を取ることは不可能に近い。
英文を先頭から順々に訳していく状態。この読み方ができればTOEICでもある程度高いスコアが取れるが、900点ともなると時間が足りない可能性がある。
英文の意味をイメージできる状態。この読み方ができればTOEICで900点を取れる可能性が高くなる。
上記の3つのステップを具体的に説明していきます。
まず、上記の例文に対して、「if you」まで訳した後に「have」を飛ばして「any questions」を見つけて訳していくやり方が第1ステップに該当します。この読み方だと英文を何度も前後することになるため、非常に時間がかかります。
次に、「if you」まで訳した後にそのまま「have」を訳して、「any questions」を訳すやり方が第2ステップです。この読み方は、第1ステップと違って英文を前後することがないため、より速く訳すことが可能です。
そして、「if you have any questions」を英語のまま頭の中で意味がイメージできる状態が第3ステップです。第2ステップと異なり、英単語一つ一つを訳すことはしません。この一文を見たら、その意味を一気にイメージします。
多読を行うことで、第1ステップから第2、第3ステップへと英文を読むリズムを変えていくことができます。
② 英文を読むスピードが上がる
①に付随する効果ですが、第3ステップの訳し方ができるようになることで英文を読む速度を上げることが可能です。また、英文を大量に読んでいると、同じような英単語やフレーズを何度も見かけることでしょう。そうすると、2回目以降は意味を思い出す時間が短くなり、英文を速く読めるようになります。
③ 英単語を覚えられる
多読はその名の通り大量の英文を読むことですから、多くの英単語を覚えることができます。
多読が難しい理由
このブログを読んでいるあなたは多読をしていて知らない英単語に出会ったとき、その意味を調べているでしょうか?
多読は大量の英文を読むことですから、いちいち知らない英単語の意味を調べていたらなかなか読み進めることはできません。そのため、多読に慣れてくると、いつしか知らない英単語が出てきても何とも思わなくなり、そこを飛ばして読む習慣がついてしまいます。
知らない英単語を前後の文脈から推測する勉強法として、意味を調べないならまだましな方です。しかし、意味の推測は非常に難しい上級者のテクニックです。「前後の文脈はこうなっているから、この英単語はこういう意味だろう」と論理立てて考察する必要があり、それができるのはTOEICで900点を越えたレベルの英語学習者だと思います。
そもそもTOEICに出てくる英単語には偏りがあり、その数も多くありません。そのため、ある程度の単語力があれば知らない単語に出会うことも少なく、それ故に意味を推測する能力は不要です。
だから、知らない英単語の意味を調べないことは、TOEICのスコアを上げるためには何一つプラス要素がありません。
しかし、だからと言ってその都度英単語の意味を辞書で調べれば良いかというとそうではないのです。知らない英単語の意味をいちいち調べていたら、多読の効果で説明した「英語を読むリズム」を身につけることができないのです。
流れるように大量の英文を読み進めることによって、英文を訳すリズムを叩き込むことができます。辞書で何度も調べていたら、リズムをつかむことができない上に、調べる時間に手間がかかって多くの英文を読むこともできません。
一般的には、多読の教材として適しているのは、英単語の8割~9割を知っている教材と言われています。そのため、自分のレベルより少し下げたちょっと簡単と思えるくらいの教材が多読に合っています。
つまり、多読の効果である「①英語を読むリズムを覚える」と「③英単語を覚えられる」はどちらか一方しか得ることが難しいのです。知らない英単語が多い教材を使って辞書で意味を調べていけば英単語は覚えられますが、英語を読むリズムは身につきません。逆に、簡単な教材を使って多読を行えば、英語を読むリズムは覚えられますが、英単語を覚えることはできません。
個人的な意見としては、多読の効果は「①英語を読むリズムを覚える」を優先すべきです。TOEICに関しては、先述したように出題される英単語は基本的にはビジネス英語に限定されており、覚えなくてはいけない英単語の数もそれほど多くありません。
そのため、単語帳やTOEICの公式問題集などを使えば、出題頻度が高い英単語を効率よく覚えることが可能です。だからこそ、わざわざ多読をして単語力をつける必要はないのです。
どのように多読をすべきか
多読の教材としてよく洋書が挙げられます。しかし、そのような洋書に出てくる英単語やフレーズはTOEICに出てくるものとは全く異なります。そのため、せっかく頑張って英語のフレーズを覚えても、いざTOEICの長文を読んだときにはそのフレーズが出てくることはなく、多読の効果はありません。
だからこそ、多読をするのであればTOEICの公式問題集などTOEIC関連の教材で行うことが最も効果的です。そして、英語を読むリズムを覚えるためにはある程度の単語を知っている必要がありますから、多読をするのに適している時期は単語の勉強が一通り完了した後が良いでしょう。
また、TOEICの英文は正直あまり面白い内容とは言えませんから、多読することは苦痛です。その場合は、ビジネス関連の教材を多読すれば良いでしょう。
普段の勉強の気晴らしに、たまに洋書を読んだりすることは全く問題ありません。私も実際にやっていました。しかし、TOEICのスコアを上げるために、TOEICと関係ない教材で多読することは危険です。
まとめ
正しく英語学習法の効果を認識していない場合、いつの間にか誤った勉強方法になっていることはよくあります。
特に多読の場合、いつしか多くの英文や本を読み終えること自体が目的となってしまい、満足してしまうことがあります。しかし、上記で説明したとおり、多読の効果を最大限得るためには、多読を行う時期や多読で使う教材に注意する必要があるのです。